電機業界 動向:赤字の家電・PC(完成品)から撤退 電子部品・金融・社会インフラ等へシフト

 

 

テレビや洗濯機、冷蔵庫と言った家電製品。これらを作っていることで有名なのが電機メーカーです。三菱電機東芝日立製作所ソニーパナソニックなどが代表的ですね。(日立・三菱・東芝は特に総合電機メーカーと呼ばれています。)

電機メーカーは戦後「三種の神器」と呼ばれたこれらの電化製品を販売し、巨利を得ていました。しかし現在、電機メーカーは家電事業から撤退し、新しい事業に移ろうとしています。なぜでしょうか。

理由は家電製品のコモディティ化(汎用品化)です。

テレビもパソコンも洗濯機も、部品メーカーから買った部品を組み立てて、それを販売する商売です。プラモデルを組み立てるのと、プラモデルの部品を一から作るのと、どちらが難しいかを想像して頂ければ分かるかと思いますが、家電を作るのにそれほど技術は要らないんです。(例として不適当かも…)

結果、ハイアール美的集団と言った中国企業に技術で追いつかれ、市場価格は暴落。三種の神器と呼ばれていたのも今は昔、大学生が一ヶ月バイトを頑張れば50インチのテレビを買える時代になってしまいました。そんな訳で、電機業界は大不況に陥ります。

不正会計で誤魔化していた東芝を除き、電機メーカー各社は大赤字を計上。特に液晶テレビに集中投資していたシャープのダメージは甚大なものでした。各社共に儲からない事業のリストラ、新規事業への投資を進めます。三菱電機ソニーなど、改革が上手くいった企業は業績も復活しています。一方、シャープ・東芝をはじめとする改革に失敗した企業の将来の見通しは厳しいと言わざるを得ません。

で、各社の現在の状況を書きます。尚、平均勤続年数及び平均年収は2016年度有価証券報告書に記載の数値です。

 

ソニー:【平均勤続年数:18.0年 平均年収:910万円】

子会社「ソニー生命」「ソニー銀行」等の金融事業と、スマホ用カメラに用いられる電子部品CMOSイメージセンサー」で稼ぐ。ただし、ソニーはデジカメも販売している為、スマホで高画質の写真が撮れるようになればなるほどカメラ事業が不振になるジレンマを抱える。

他の電機メーカーと比較すると、生保・損保・銀行・映画・音楽・介護と様々なビジネスに手を広げているのが特徴。

パソコン事業は「vaio株式会社」として日本産業パートナーズに売却。

 

東芝:【平均勤続年数:18.2年 平均年収:710万円】

医療機器原発半導体メモリの三本柱で稼いでいく戦略…だったが、不正会計が発覚。更に約6000億円を投じて買収した原発子会社の米ウエスチングハウス(WH)が、原発の建設をしなさ過ぎてすっかり技術力を失っていることも判明。

(アメリカではスリーマイル島原発事故以来、30年間原発の新設を行っていなかった。で、そのために東芝が買収した際のWH社企業価値は、とても6,000億円に見合わないものになっていたらしい。東芝の元社長、田中久雄氏の文春記事より)

残りの二本柱である東芝メモリ東芝メディカル」は不正のツケで売り飛ばしてしまう。これで東芝は、現金を手にして生き残った代わりに将来の柱となる事業を全て失った。

ちなみに白物家電の子会社「東芝ライフスタイル」は、中国2位の白物家電メーカー、美的集団に2016年売却。テレビ事業の子会社「東芝映像ソリューション」も中国ハイセンスに売却。

 

日立製作所:【平均勤続年数:18.6年 平均年収:841万円】

昔はリストラをしない会社だったらしいが、リーマンショックで4年連続赤字を計上して以降、テレビ事業の撤退など痛みを伴う改革を厭わないようになる。好業績を装った東芝が改革を先送りしていたのとは対照的。ITインフラを主力に据える戦略。

業績が回復して4年経った2016年から、再び日立製作所は大規模な事業リストラに着手。今回は「選択と集中」ということで、例え儲かっている事業でも、今後主力とする事業と関係の薄い事業は容赦無く売却する方針である。以下具体例。

日立物流SGホールディングス(佐川急便)に、日立工機日立国際電気は米投資ファンドKRRホールディングスに、日立キャピタル三菱ufjフィナンシャルグループに売却。

日立グループ各社の親会社にあたり、単純な売上規模は約10兆円で日本の電機メーカーとしては最大。

 

三菱電機:【平均勤続年数:16.4年 平均年収:795万円】

工場の自動化に使われるファクトリーオートメーション(FA)機器に強い。キーエンスオムロンが競合。その他、エレベータでは日立、東芝を抑えて国内1位。人工衛星も手がける。イメージとしては、家電事業依存からの脱却という課題に対し、銀行・介護・音楽などBtoC(消費者向け)ビジネスの拡大戦略を採ったソニーとは真逆で、BtoB(法人向け)ビジネスを拡大

※備考

三菱電機では、16卒の新入社員が入社1年目の11月に自殺しており、遺族が「上司のいじめが原因」として2017年9月27日に提訴に踏み切っている。*1

また、2017年1月、神奈川県労働局により、法人としての三菱電機は違法残業の疑いで書類送検されている。*2

 

パナソニック:【平均勤続年数:22.8年 平均年収:781万円】

家電事業で国内最大手。しかし他の競合と同じく家電事業依存からの脱却を目指す。今後の柱と位置づけるのは、自動車部品住宅関連。自動車部品では、車載用電池ビジネスをテスラ(アメリカの大手電気自動車メーカー)と協業で進める戦略。住宅関連は住宅メーカーのパナホームに、介護事業を手がけるパナソニックエイジフリーなど。

 

各社の将来性について

医療機器事業、半導体関連事業、FA機器事業等の需要が伸びていくと考えられ、この分野で強い企業の将来は明るいのではないかと思います。

上記5社だけでも方向性が全く異なるので、再度まとめておきます。

ソニー金融電子部品に注力。

東芝医療機器半導体メモリは売却。原発は撤退。将来の柱となる事業がない。

日立製作所ITインフラに集中投資。無関係の事業はたとえ好調でも売却し、投資資金とする。

三菱電機FA機器エレベータ空調人工衛星等柱が多い。

パナソニック:家電から自動車部品住宅関連にシフトする戦略。

 

子会社の中で将来性がありそうなものを以下に挙げます。

東芝メディカルシステムズキヤノンが買収した医療機器メーカー。医療小説「チーム・バチスタの栄光」で取り上げられた画像診断システムを中核とした事業展開を行う。世界的な人口の増大、及び医療水準の向上に伴って、医療機器はほぼ確実に伸びる分野である。

 

東芝メモリ半導体メモリメーカー。米投資ファンドベイン・キャピタル、韓国同業のSKハイニックス、日本の産業革新機構などの日米韓連合が買収。好業績。

 

ソニー損保ソニーの金融系企業ではもっとも堅調。自動車保険依存からの脱却を目指す。

 

日立金属日立製作所傘下の特殊鋼メーカー。日立グループの企業としては最大規模。財務状況は良好で、安定して利益を上げている。

 

まとめ

書きながら思ったんですが、浮き沈みが超激しい業界ですねこれ…。

食品業界、製薬業界、化学業界とか色々ある製造業界の中で、ここほど頻繁に事業を売ったり買ったりするところは稀だと思います。

就活で富士通の社員の方(社員歴30年程)とお話する機会があったのですが、入社当時と今では扱う製品も働き方も何もかもが違っているそうです。まあそれも考えてみれば当然の話で、人々が手にする電気製品はとんでもない速度で変化していってる訳です。

新薬を作れば20年は特許に守られる製薬メーカー、ブランドイメージが根付けば長期間安定した需要が見込める食品メーカー(キューピーマヨネーズとか)、幅広い産業から必要とされる素材を作る化学メーカー等と比べて流行り廃りの非常に激しい世界です。本社の事業部が切り離されて売却、気づけば入社した会社とは無縁の会社の社員に、なんてことも十分あり得るかと思います。

なので、安定性なんてクソくらえ!環境は変化し続ける方が良いし、その余波でリストラされても一つの経験だ、くらいに思える方は向いてるかと思います。

あと、三菱電機についてですが、説明会の印象としてはかなり厳しい社風だと感じました。体育会系でタフな方には向いているかと思われます。上記の通り、労災・自殺事件が事実として起きているので、それも踏まえておく必要があるかと思います。

 

このブログの趣旨について

これは、就職留年した元就活生が、余りまくった時間で調べた日本の産業界の情報について発信するブログです。

このブログの目的は、以下の2つです。


1.学生と企業との間にある情報格差を埋めること。


就活は人生を大きく左右するものですが、一方で多くの学生は企業・業界の仕組みや働き方についてあまり知らないまま就活に臨むことになると思います。みなさんがなるべく正確な情報を得て、後悔しない就職を行うための一助になれば良いなあと思っております。

 

2.趣味と化した業界研究に意味を与えること。


これは本当に個人的な理由です。笑
僕は就活を終えてからも、各業界の動向を調べるのが習慣付きました。未だに日経は毎朝読むし週刊ダイヤモンドも購読してたりするんですが、いくら知識を身につけてもそれだけでは役に立たないんですよね。折角なのでブログにでも調べたことを書けば意味があるんじゃないか、と考えました。

 

暇を見つくろって、ぼちぼち更新していく所存です。